last updated 1997/08/12
第89話(全130話)
星の船(4/4)
この船はひとつの理想郷となりました。
ドンロンは本物の人間たちが本当に暮らしている箱庭になりました。人間だけではなく、動
物たちも快適に暮らしています。
こんな大きな船で、こんなに大勢の人が乗っているのですから、ほかの国の人々は、ドンロ
ンが怖くなりました。だってちょっと港に停泊させたら。それだけで街の半分がドンロンの影
に入ってしまうからです。空を覆うほどの船、というのは何もしなくても人々を怯えさせまし
た。そして人々はこんなにも自分たちを怯えさせるのだから、ドンロンはきっとケダック国の
作った軍艦なんだろうと思いました。
ただ大きな船を動かすのに必要だから、たくさんの人が乗っていただけなのに、ほかの国の
人々はケダックがこちらの国を乗っ取るために住民もろとも攻めてきた、と思ってしまいまし
た。
でも本当はこの船は、ただ大きいだけの船でした。
大きな船が作りたかっただけなのです。
誰かを怖がらせようとしたり、いじめようとして作られたわけではありません。
なのに、ドンロンはみんなから怖がられました。
ただ姿が大きいというだけで、村人から恐れられた巨人と同じですね。
ですからドンロンは人々から怖がられないように、自分をうんと綺麗にみせようと考えまし
た。体中に電気をつけて、まるで星空のように美しく輝かせることにしたのです。
ドンロンが夜の海を航海するさまは、まるで星空の宮殿がゆっくりと進んでいるかのようで
した。本当の夜空でさえ、嫉妬するほどの見事な輝きでした。
あんまり美しいので、人々は圧倒され、言葉をなくし、そしてやっぱり「怖い」と思いまし
た。人は美しすぎるものを見ても、何だかそこに「怖いもの」を感じてしまうようなのです。
誰も足を踏み入れない森の中にさまよい込んで、人が足を踏み入れたことのない谷に出たとし
ます。そしてそこで木々が見事に紅葉して、陽射しに映え、夢のような美しさをみせていたと
したらどうでしょう。誰も見ていない森の奥で地球の宝石のようにきらめく木々。そういうも
のを目にすると、たいていの人は「ゾッとする」のです。あまりの美しさに怖くなるのです。
こんなにも美しいものを発見してしまった自分が、何かとてつもない罪をおかしてしまった者
のように感じるのです。見てはならないものを見てしまった。そう感じるのです。
ドンロンもそれと同じでした。
夜の海で水平線を華麗な光で彩りながら進んで行く、巨大な船。
それはさながら「魔界」でした。美しすぎる恐怖でした。
だから
やっぱり、ドンロンは人々に恐れられる船なのでした。
ただ大きくなりたかった。ただ綺麗になりたかった。
そんな夢を見た船は、海の魔女となって、誰も近づかない海原を、たったひとりどこまでも
航海し続けることになったのでした。
・・いま、けれどドンロンはあてもなく、たださまよっているわけではありませんでした。
ケダック国からドンロンへと電信が送られてきていたのです。
電信にはこうありました。
「アッテハ ナラナイ モノ ヲ サガセ」
ドンロンははじめて、ただ海を進むこと以外の目的を与えられて、はりきりました。
あってはならない物。有り得ざる物。この世の物ではない物。
それを捜すことにドンロンは全力を尽くしました。
そしてみつけたのです。
あってはならないものを。
それは五○年も前に沈んだはずの船でした。その船に積まれていた救命ボートからのSOS
でした。ドンロンはそれを受信した時、耳を疑いました。
五○年も前に消えたはずの船から時を越えて送られてくるSOS。それは有り得ざるもので
した。でも、どうしてケダック国はそんなものを捜せと指令してきたのでしょうか?
じつは、捜さなければならない、たいせつな理由があったんです。
その理由というのは・・
(つづく)
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